帰らないの?  敦盛さんルート・6月\

 
敦君あっくん紅緋色あかい自転車シリーズ ・ 敦盛 自転車直し隊編 3 〜












   「龍! 飯は!?」


   「いらねぇっつってんだろ!」


   「味噌汁、冷めちゃうからさ!」


   「うるっせぇんだよ! ほっとけ! ババァ!」


キャンギャル女から渡された『コンサート・ジャーナル』とかいう音楽雑誌を読んでた。
字ばっかの本なんて、ガッコの教科書以外で見たこと無ぇから、
途中で何ンか話しかけられっと、何ィ読んでたか分からなくなっちまうんだって!


   「兄ちゃん、夕飯なんだから、降りて来いってさ」


   「集中してんだから、話しかけんじゃ無ぇ!」


   「集中って、兄ちゃん、何読んでn……え!? マンガじゃないんだ」


   「ほっとけ! 蹴るぞ!」


弟は階下に降りて、このことを両親に告げた。


   「龍がマンガ以外の本を読んでたって!!」


   「うん、活字の方が写真や広告より多かったよ」


   「龍、どうしちゃったの?」


   「さあ……」


   「明日ぁ、嵐だな」






うっせぇったら無ぇぜ! そんなに珍しいかよ! ってまぁ、珍しいだろうな。
ええと、なんだっけ、………あ、そうそう、敦紀の記事だ。
『無冠の貴公子、現る!』なんていいながら、2ページぽっちの記事なんだけど、なんとビックリ!
敦紀の奴の特集に近いんだ、これが。
記事に写真が3つあるけど、2つはあいつの写真だし。
演奏中のと、どこかのレストランかなんかでインタビュー受けてるところ。
目の前のテーブルに置かれているのがホットケーキってのが、あいつらしくて笑えるゼ。


横浜市内の大学の雅楽サークル! 雅楽?? ガガクってなんだ?
ま、オザキとナガブチくらいしか音楽聴かねぇ俺には、まったく完璧に縁の無い世界だぁな。
で、そのサークルの演奏者が怪我ぁして、ピンチヒッターとして抜擢(何て読むんだ??)されたのが
春先からこっち、横浜市内で噂になっていた『横笛の君』……
へ?
「エフノバオアエフノバオア」ってやつじゃん? 俺も知ってる。ってか、それ敦紀あいつだったんだ。
んで、三管両弦三鼓(??? 何だ、これ??)での演奏会が、横笛中心の曲目にアレンジされて
雅楽のコンサートでは記者も見たことのないスタンディング・オベーション??


だめだ! 文字は読めても、さっぱり日本語として理解できねぇ!
てか、ホントにこれ、日本語……だよな? やたらとカタカナと漢字が多いけど


そんなことを考えていたら、また弟が2階に上がってきた。


   「兄ちゃん」


   「くどいんだよ! 飯はいらねぇって」


   「いや、電話」


   「はぁ?」


慌てて携帯を探すが


   「違うよ。家電の方。女の人だよ」


   「女ぁ??? 誰だ?」


   「アリサさんとかって言ってた」


   「アリサだぁ?」


階段を下りて、受話器を掴む。ったく! 家族中が聞き耳を立ててるのが分かるじゃねぇかよ!
そんな中、思い切り不機嫌な声で


   「岡だ」


受話器の向こうで軽く「プッ」と吹くような声が聞こえ、ますます不愉快になる。


   「誰だ、てめぇ」


   「そんなに尖がるな、青年」


   「青年っ…!? てめぇ、Dokomaショップの」


どこでどう調べたのか自宅の修理工場にDokomaネエチャンが電話してきたのだ。
例の自転車警備隊だか何だかの打ち合わせをしたいから出てこないか
そう一方的に用件を伝えてきたのだった。


   「俺さぁ、川崎なんですけど」


   「ま、そう言うな、青年」


   「横浜駅の脇のちっちぇえ商店街の、来るんだか来ねぇんだか分からない自転車のために
    川崎、しかも東京寄りの川崎に住んでる人間、わざわざ呼び出すのかよ」


   「スコーン2つ買うのにさ、
    わざわざ原チャリ跳ばして横浜駅の近所まで来る人間の言う台詞じゃないわよね。
    お父様にご連絡しようかしら。
    お宅のお坊ちゃん、どこでパンを御買い上げなのか御存知ですかぁって」


   「脅しかよ」


   「とぉんでもない。それどころか感謝してほしいけどなぁ」


   「感謝だぁ!?」


   「おいで。ね」


そう強引に押し切られて指定のサ店に入る。


   「あ! 岡さん、来てくれたんだ」


と、そこには花菜ちゃんが満面の笑顔で手を振って迎えてくれた。感謝……か……
! いやいやいやいやいやいや!
あの女に絶対そんな素振りを見せたら、図に乗って何ぃ言い出すか分からねぇからな!






なんとなくぎこちない会話を交わしながら、運ばれてきたコーヒーを啜ると、突然、花菜ちゃんが


   「お仕事、何をなさってるんですか?」


と言った。


   「お仕事………ね」


   「良くお店に来てくださるので、この近くにお勤めなのかなって」


   「い、いや……こっちには、え〜、その……、ぶ、部品を仕入れに」


   「部品?」


   「あ、ああ。俺、川崎の方で工場を経営してて」


   「工場経営。すごいですね、お若いのに」


   「お若いのにって……、あのね、あんたとそんなに年齢としぃ違わないぜ」


   「え〜?」


   「まだ未成年、19歳だぜ、俺。誕生日来てねぇからよ」


   「じゃ、今のところは私の方がお姉さんね。先月誕生日だったから」


   「それはおめでとうございます、お姉様」


   「ありがとう、弟君。……プッ!」


   「何ぃ笑われたのかな、俺?」


   「ごめんなさい」


   「どういたまして。ところでよ、前からひとつ聞きたかったんだけど」


   「はい?」


   「あんた、俺のこと怖く無ぇのか?
      こんな面だし、言葉遣いだってこんなだからよ、大概の奴ぁ近寄りもしねぇぜ」


   「優しいじゃないですか」


   「へ? や、優し…って、誰が? お、俺……、よ、よせよ。生まれて初めて言われたぜ」


   「それに、人混み歩くの、楽で良さそう。あたしは身長が低いから」


   
「いや、そんくらいの身長の方が可愛いと俺は思うんだけど」


   「はい?」


   「いや、その……、身長のそういう問題じゃ無ぇだろう」


   「アハハハ」


   「へ、ヘヘヘ……。…………悪ぃ」


   「え?」


   「見栄ぇ、張った」


   「ミエ?」


   「工場経営って」


   「違うんですか?」


   「親父がやってるだけだ。それも、チンケな町の自動車修理工場だ」


   「でも、お父様、経営なさってるんでしょう」


   「ありゃぁ経営なんていう立派なもんじゃ無ぇぜ。
      吹けば飛んじまうくらいちっぽけな、小汚ぇ修理工場だ。
    陽ぃ出る前から夜遅くまで働いてもよ、収入より銀行の借金の方が多いんだからよ。
    黒字の帳簿なんて、俺が生まれてから一度無ぇんじゃねぇか」


   「でも、立派じゃないですか。岡さんも手伝ってるんでしょ」


   「お? ……おお、ま、まあ、な」


岡龍太は、たいして汚れていない自分の手をさり気なく彼女から隠してしまった。


   「ときどきはまた、お店に、パン、買いに来て下さいね」


   「もちろんじゃん」


   「部品の仕入れのついででいいですから」


   「お、おう」


   「私、木・土が午後1時からで、月・水が夕方5時からってシフトでバイトしてますから」


   「木土1時、月水5時……分かった。覚えとく」


   「お待たせ! お、青年、良いカンジで頑張っとるな」


一瞬、誰だか分らなかった。
ただ、この言葉遣いでDokomaネエチャンだと分かったが、あんた意外と私服は地味なんだな。
こ〜んな超ミニでボディーラインばっちりなキャンギャル姿しか見たことなかったから、びっくりだぜ。


   「お? 青年、何を見ている? さては私に見とれたな?」


この女! 花菜ちゃんの前で何てことをぬかしやがるんだ!


   「ホント、分かりやすい性格だな、青年」


   「あのな、あんた何時になったら俺の名前覚えるんだ? ってか絶対ぇ、覚える気、無ぇだろ」


   「当然」


   「この!」


   「まあまあ、せっかく揃ったんだし。じゃ、始めましょ」


   「え? 揃ったって……、さ、3人だけかよ!?」










   「で、うちの店長のトコにも、横浜市の自治会連合会の会長って人から電話があったって」


   「ジチカイレンゴウカイ? なんだそりゃ」


   「ほら、どこにでも自治会とか町内会ってあるじゃないですか」


   「回覧板を廻すのが遅せぇって文句言う奴とか、
    町内のゴミゼロ運動で参加しろってビニール袋と軍手配ってる親父のことか?」


   「そうそう。その会の横浜市全体の集まりが自治会連合会」


   「うぜぇ」


   「本当に立ち上げたんだって、あのヤニ親父」


   「ああ、敦紀さんの自転車を警備する連絡協議会ですね。すごい!」


   「あのよ」


   「はい?」
   「何?」


   「根本的な質問をしていいか」


   「どんな?」


   「って言うか、あの平敦紀とかっていうのは、いったい何モンなんだ?
    何で、横浜中の、そのジチカイレンゴカイとかが、あいつの自転車、見張ってやるんだ?」


   「あんた、直接会って話したんじゃないの?」


   「した」


   「だったら、分かるんじゃない」


   「何が?」


   「あんな華奢な子の自転車がよ、万が一盗まれたりしたら、悲しむでしょ」


   「そりゃぁ、な。で?」


   「『で』って?」


   「横浜だけでも1日にチャリ何台パクられてっと思ってるんだ?
    それを、たった1人の、たった1台のチャリの為に、横浜中のジチカイレンゴカイが見張るって?
    それもどうやらよ、御本人には内緒みたいじゃねぇか。
    これはもう、バカ通り越して、ギャグとしか思えないね」


   「あんた、あの子の悲しむ顔、そんなに見たいの?」


   「いや、そういうわけじゃ……。あいつってば、妙におどおどしてる割に天然でよ。
    ま、道端でミィミィ鳴いてる子猫か子犬みたいで、何か放っとけねぇのは確かだけどよ」


   「そうでしょ」


   「理由は? ジチカイレン、ああ! 言いづれぇ! その団体があいつの自転車を見張る理由」


   「理由?」


   「あいつの親が国のお偉いさんだとか、どっかの国の王族だとか……。まさかな、言ってて自分がアホ臭くなる」


   「だから、あの子の悲しむ顔を見たくない。それだけの事よ」


   「……マジでそれだけ!?」


   「マジそれだけ。でもさ、それだけの事かもしれないけど、それが横浜市の総意なのよ」


   「マジかよ! 信じられねぇな、おい」


   「ま、ついで彼ら以外の自転車やバイクの盗難にも注意を促そうって意図もあるかもしれないけど。警察の方にはサ」


   「そっちがメインってんなら信じられるんだがな」


   「ううん、メインはあくまで『平敦紀の自転車を盗難から守るための連絡協議会』」


   「もっと他にやる事あんじゃねぇか。横浜市ジチカイレンゴ……、ああ! 言い辛ぇったらねぇな!」


   「でも、素敵な事だと思います」


それまで黙って俺とキャンギャル姉ちゃんの会話を聞いていた花菜ちゃんが、すっごく真面目な顔でそう宣った。










   「クシュン! ハ、ハ、ハクシュン!」


   「おいおい、敦盛、どうしたんだい?」


   「いや、どうしたのかと聞かれても分かr、クシュン!」


ヒノエは敦盛の額にすばやく手をあてて、


   「ふん……、熱は無いようだけどね……」


   「いや、私が熱など出しようもないのだが……クシュン!」


   「熱が無いのだとすれば、かなりお前、噂されている事になるのかな。
    この時間、神子姫や譲たちは授業中のはずだからね、噂のしようもないはずだ。
    ふむ……誰だろうね、分からない……。ちょっと不愉快だし、妬ける、かな?
    さぁ、誰に噂されているのか白状したまえ、ワトスン君」


   「白状……、そんな…。え? ヒ、ヒノエ?」


   「ま、冗談はさて置いて、クシャミをするお前も可愛いけどね、どうにも心配じゃん。
    ほら。」


そう言うと薬箱から体温計を取り出して、敦盛に渡すのだった。










   「じゃぁ、また。失礼します」


   「おう、また、な」


   「……フフン」


   「なんだよ」


   「『じゃぁ、また。失礼します』『おう、また、な』」


   「気色悪ぃな。声色、真似すんなよ」


   「いやいや、なかなか順調ではないか。お姉ぇさんとしては嬉しい限りだと思ってね」


   「け、てめぇで『お姉ぇさん』とか言うか。おばさん」


   「じゃぁ、うちらの商店街の責任者は近藤花菜ちゃんで。警備主任は青年、君だ」


   「あのね、何度も言うけど、俺、川崎、カ・ワ・サ・キ! 分かる?」


   「ちっちゃい事にこだわるな、青年」


   「こだわるだろ、普通! 誰が交通費出してくれんだよ!」


   「だって、あたしは仕事があるし、彼女は学校があるじゃない。って事は青年しかいないってことだ」


   「他にいるだろ! ちっせぇながらも商店街なんだからよ!」


   「もう決まったことなのだよ」


   「だかr」


   「花菜ちゃん、喜んでんだぞ。それをあんたがぶち壊しにするつもりか、青年!」


   「そ、それは……」










   「龍、何ぃ読んでんだ? ったく、いい若けぇモンがこんな昼間っからゴロゴロしやがっt、
    ……? ……! 『三級自動車整備士』って、お前…」


   「な、何だよ! いいだろ! 人が何ぃ読もうがよ」


   「お前、修理工なんて油臭ぇ仕事は嫌だって」


   「ちょ、ちょっとした心境の変化って言うか、興味が湧いたって言うか……
    気まぐれなだけだよ! 気・ま・ぐ・れ!」


   「(そうかそうか)け、どうせ、すぐ飽きんだろう」


   「うっせぇな! あっち行けよ!」


   (やっと、その気になってくれたか)


そう思うと、つい頬が緩んでしまう父親であった。












11/10/17 UP

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